幼児教育の現場で広く用いられているフラッシュカードは、瞬間的に図や文字を見せて答えを言わせることで、カメラのように映像として記憶する幼児特有の能力を引き出し、一見すると大人にはできないような記憶力を発揮させます 。しかし、この手法を使って漢字の読みなどを教え込むことは、子供に対して「言葉や漢字は大人から教えてもらうものだ」という先入観を植え付けることになります 。本来、子供は教えられなくても、大人の言葉が飛び交う日常の環境の中から、一つひとつの言葉を自ら習得していく驚くべき能力を持っています 。ピグマリオンがフラッシュカードを一切使用しないのは、暗記させることで、子供が生まれつき持っている「日常生活の中で自然に言葉を獲得する能力」を奪うことを避けるためです 。わからない漢字があっても立ち止まらずに平気で読み進め、その文脈の中で少しずつ語彙を増やしていく状態を維持することが、言語能力の育成においては不可欠なのです 。

そのため、言語能力を育成するアプローチとしては、子供向けに平易にされた言葉や一つ一つの文字を覚えるのではなく、最初から漢字が混ざった大人の文章を与えます 。たとえば、年少の段階から「紅葉」のような漢字が多く含まれた童謡の歌詞を指でなぞりながら親が歌って聞かせたり、漢字交じりの読本を読み聞かせたりします 。ピグマリオンの教材の問題文にも漢字が沢山取り入れられています。子供は最初から漢字が読めるわけではありませんが、親の声を聞きながら文字を追うことを繰り返すうちに、暗記を強要されずとも自然と漢字の読みを理解し、言葉の意味を吸収していきます 。漢字の読み方を直接教えることは一切ありませんが、この豊かな言葉のシャワーを浴び続けることで、小学校へ上がる頃には複雑な漢字交じりの算数の文章題などもスムーズに読みこなせるようになります 。文脈から読み方を推測して読む子も出てきます。言葉を押し付けて覚えさせる演繹法ではなく、大量の言葉に触れるなかで自ら習得のスピードを加速させていくという自然な学びのプロセスを大切にしているのです 。

このような「自ら学んで育つ」環境を成立させるために最も重要なのが、親自身が子供と一緒に学ぶという姿勢です 。本来、学ぶことは子供の本能であり、自分を守り愛してくれる親と共に何かをする時間は、子供にとって何よりも幸せで楽しい時間です 。しかし、愛情ゆえに「将来のために勉強はさせなければならないもの」という思い込みを持ち、幼児教室の宿題などを子供に無理強いしてしまう親も少なくありません 。強制されて嫌々行う勉強では、子供の本当の能力は決して育ちません 。能力のある子供とは、自ら進んで学び、その学びのプロセスを心から楽しめる子供のことです 。素晴らしい教育メソッドであっても、親が幼児の特性や学びの本質を理解していなければ成果を出すことはできず、子供を教育すること以上に、親自身の教育に対する理解が問われます 。親が先生となって教え込むのではなく、子供の傍らで共に学びを楽しむパートナーとなることが、子供の持続的な能力開発における最大の鍵となります 。