幼児期の知育において、指先の調整能力とともに高めておきたい重要な能力に「見る力」があります。この見る力を養い、発達度合いを測るための代表的な教材が点描写です。点図形や点つなぎなど様々な名称で広く知られていますが、実は点描写という呼び名はピグマリオン教育が発祥です。教育に関心の高いご家庭でよく取り組まれる教材ですが、それゆえに何度やらせてもできない、枠からはみ出してしまうという悩みを抱える親御さんも少なくありません。点描写がうまくできないとき、子供は手抜きをしているのではなく、対象の形や位置が正しく見えていない可能性が高いと言えます。見る力とは単に視力のことではなく、対象に焦点を合わせ、形や空間的な位置関係を捉え、平面を立体として認識する複雑な脳の働きを指します。この力が未発達な状態の子供は、お手本の点の位置がぼんやりとしか認識できず、手と目の協応動作も不十分なため、自分がどこに線を引いているのかも正確には把握できていません。そのような状態の子供に対して「もっとよく見て」と声をかけても、どう見ればよいのかがわからないため、結果としてプリント学習そのものへの苦手意識を植え付けることになってしまいます。対象に焦点を合わせて形を捉える力は生まれつき備わっているものではなく、経験を通じて少しずつ獲得していくものであるという前提を大人が理解しておくことが不可欠で、そのための教材が点描写なのです。

ピグマリオンでは、幼児期の最重要課題として指先、図形、点描写の三つの能力を高めることを掲げていますが、これらは独立しているのではなく、互いに深く連動して成長していきます。もし点描写でつまずいている場合は、点描写のプリントばかりを繰り返すのではなく、指先の運動や図形パズルといった別の視点からのアプローチに意識を向けることが効果的です。たとえばパズル遊びで形の同定を認識できていなければ、点描写の線も正しく捉えることはできません。また、子供は目に見えるものには注意を向けますが、何もない空間には意識が向きにくいという特性を持っています。点描写においては、点と点を結ぶ線だけでなく、線のない空白の部分を空間として捉えられて初めて、正確な位置関係が定まります。見えない部分を頭の中でイメージし補完する能力は、図形や空間認識の分野に限らず、子供の想像力や創造力、ひいては他者の気持ちを推し量る人間性にも密接に関わるため、日々の生活のなかで大切に育てていきたい力です。

初めて点描写に取り組む2歳から3歳頃の子供は、お手本通りに描き写すという言葉の意味自体をまだ理解していません。最初は親が子供の手を優しく包み込み、一緒に線を引いてあげることから始めるのが望ましい手順です。多くの場合、子供は同じ場所に描いてと指示されると、白紙の解答欄ではなくお手本そのものをなぞったり、無造作に線を引いたりしてしまいます。お手本の図形を別の白紙の台紙に再現するというルールを理解するまでには、ある程度の時間を要します。親と一緒に手を動かし、描き写したものがお手本と同じ形になったときには、それが正解であることを明確に示し、親自身が心から喜ぶ姿を見せることが非常に重要です。子供が初めて一人で歩いたときや、離乳食を飲み込めたときに親が歓喜したのと同じように、学習においても親が共に喜んでくれる姿を見ることで、子供はそれが楽しいことだと感じ自発的な意欲を高めていきます。点描写のプリント1枚には、形や位置や図形の重なりを捉える力、視野の広さ、そして運筆をはじめとする指先の調整能力など、子供の現在の発達段階を知るための多くの情報が詰まっています。学習が進めば、鏡に映った絵や回転させた図形、立体を平面で表す見取り図の点描写など、より高度な空間認識能力が求められるようになります。これから本格的な学習を始める際には、数ヶ月先の目標の一つとして点描写ができるようになることを掲げ、子供の見る力が育っていく過程を焦らずに楽しんで見守ることが大切です。